机上の空論気味の現行延長論

各論比較 

原則解禁論 現行延長論 原則禁止論
医療上の必要性が高い混合診療全面解禁評価療養を慎重に拡大期間限定解禁
医学的根拠の乏しい混合診療全面解禁禁止禁止
危険性の高い混合診療全面解禁禁止禁止
アメニティ項目・医療外サービス全面解禁選定療養で対応選定療養で対応
民間企業参入可能な限り拡大国民皆保険原則でのみ国民皆保険原則でのみ
詐欺対策・安全対策別途規制制度に内包制度に内包
患者負担×
医療財政×△〜◎
短期的治療機会(混合可能患者)
短期的治療機会(混合不能患者)
長期的治療機会(混合可能患者)×
長期的治療機会(混合不能患者)×
支持者
  • 医療関係企業
  • 民間保険会社
  • 財務省
  • 一部の患者個人

注:医療財政と長期的治療機会はバーターであり一概には言えない。たとえば、原則解禁論であっても長期的治療機会を犠牲にすれば医療財政の改善は可能である。表では、長期的治療機会が同等である場合の医療財政の有利不利、医療財政が同等である場合の長期的治療機会の有利不利を記載した。

各論の比較

保険充実策の欠如 

もし、安全で有効なことが客観的に証明されている薬ならば、保険外ではなく健康保険で使えるようにすれば、すべての患者さんが公平にその恩恵を被ることができます。

つまり、時間をかけずに、速やかに保険で使えるようなルールをつくれば済むことです。

混合診療ってなに?Q4 - 日本医師会

日本医師会は「時間をかけずに、速やかに保険で使えるようなルール」を作れと言いながら、その具体的な方法論には踏み込まない。 改善策を国に丸投げして、「つくれば済む」の一言で済ますならば、絵に描いた餅である。 一方、原則禁止論(限定解禁論)は、ドラッグラグ・未承認薬問題の根本的解決策だけでなく、当面の暫定的対応にまで踏み込んだ提言を行なっている。 現実に即した改革案ではなく、絵に描いた餅を追いかけている所が、現行延長論の最大の問題である。

支出と財源問題 

日本医師会は、診療報酬の増加を招く出来高払いを求めている(国民の安心を約束する医療保険制度 - 日本医師会P.27)。 一方、財源問題については、現実的医療財政改革のような、必要性の乏しい医療の保険外しと窓口負担増には踏み込んでいない。

日本医師会は、公的医療保険を支える財源として、保険料改革、消費税改革、国の歳出改革を、同時並行で行なうことをあらためて提案する。 日本医師会は公的医療保険制度の全国一本化を提案しており、保険料改革や国の歳出改革によってもたらされる財源は一本化までの間の財政調整財源、消費税改革等による財源は長期的な安定的財源として期待される。

  1. 保険料改革
    保険者間の財政調整財源とするため、保険料率等を見直し、保険料収入の増収を図る。
    1. 被用者保険の保険料率を、もっとも保険料率の高い協会けんぽの水準に引き上げる。
    2. 国民健康保険の賦課限度額、被用者保険の標準報酬月額の上限を引き上げ、高額所得者に応分の負担を求める。一方、低所得者や高齢者の負担軽減に配慮する。
  2. 消費税などの改革
    公的医療保険の持続性を高めるためには、安定的な税財源が不可欠である。日本医師会は、安定的財源の重要な選択肢のひとつである消費税についても、検討を行なっていく。
  3. 国の歳出改革
    特別会計の見直し、独立行政法人の見直し、公務員制度改革の徹底など、歳出改革を継続していく必要がある。

国民の安心を約束する医療保険制度 - 日本医師会P.33

日本医師会は、窓口負担については、むしろ、減らせと主張している。

2.家計における負担の増加

◆患者負担の増加

  • 窓口負担の引き上げ
    • 2002.1070歳以上高齢者完全定率1割負担(一定所得以上の高齢者は2割)
    • 2003.4被用者保険本人3割負担
    • 2006.10現役並みの所得がある70歳以上高齢者3割負担
    • 2008.470-74歳の高齢者2割負担
  • 保険給付からの除外による負担増
    • 療養病床における居住費、食費の自己負担化(介護2005.10、医療2006.10)【再掲】

また、最終報告にこそ盛り込まれなかったものの、2006年の「自民党の歳出改革に関するプロジェクトチーム」における議論では、薬剤の給付範囲見直しや、保険免責制度が議論の俎上に載った。

小泉政権における医療政策の総括 - 日本医師会P.4

患者一部負担割合についての日本医師会の提案

  • 原則として、一般2割、高齢者1割とする。
    • 現在、一般は3割であるが、所得格差による受診抑制が生じないよう、財政影響を勘案しつつ、できる限り引き下げる。高齢者を何歳以上と定義するかについては、今後の議論を踏まえて判断する。
  • 低所得者の一部負担割合は軽減する。
  • 小児(中学校卒業まで)は無料とする。
  • 高額療養費の上限についても、財政影響を勘案しつつ、できる限り引き下げる。

国民の安心を約束する医療保険制度 - 日本医師会P.30

窓口負担1割減に必要な財源を医療保険に関する基礎資料 - 厚生労働省P.64を元に単純計算すると、約3.65兆円になる。 一方で、日本医師会の保険料改革の試算の総額で2兆円の財源増にしかならない。 つまり、日本医師会の提言通りにすると、大幅な赤字になる。

国庫負担については、現実的医療財政改革では経済や暮らしへの悪影響も考慮したうえでの国民の選択の問題とした。 しかし、日本医師会の提言では経済や暮らしへの悪影響には言及せず、根拠なく、国庫負担が可能であることを前提としている。 日本医師会としては、国庫負担を増やすことは財源候補ではなく既定路線のようである。 これでは埋蔵金議論と同じではないのか。

日本医師会の提言は、無い物ねだりをしている感が強い。 最も重要な高額療養費を後回しにして、重要度の低い窓口負担率を重視した結果、財政が破綻するような提言をするのは如何なものだろうか。


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