当会は混合診療の“原則”禁止を求めます

最初に

患者にとって必要なことは、非現実的な夢物語でも、短絡的な暴論でもなく、現実的な妥協案である。 だから、当会(仮)は、最も現実に即した原則禁止論(一時的かつ限定的解禁論)を提唱する。 当会(仮)は、具体性のない夢物語も、貧乏人に死を求める暴論も支持しない。

原則解禁論 現行延長論 一時的かつ限定解禁論
=原則禁止論
医療上の必要性が高い混合診療全面解禁評価療養を慎重に拡大期間限定解禁
医学的根拠の乏しい混合診療全面解禁禁止禁止
危険性の高い混合診療全面解禁禁止禁止
アメニティ項目・医療外サービス全面解禁選定療養で対応選定療養で対応
民間企業参入可能な限り拡大国民皆保険原則でのみ国民皆保険原則でのみ
詐欺対策・安全対策別途規制制度に内包制度に内包
患者負担×
医療財政×△〜◎
短期的治療機会(混合可能患者)
短期的治療機会(混合不能患者)
長期的治療機会(混合可能患者)×
長期的治療機会(混合不能患者)×
支持者
  • 医療関係企業
  • 民間保険会社
  • 財務省
  • 一部の患者個人

注:医療財政と長期的治療機会はバーターであり一概には言えない。たとえば、原則解禁論であっても長期的治療機会を犠牲にすれば医療財政の改善は可能である。表では、長期的治療機会が同等である場合の医療財政の有利不利、医療財政が同等である場合の長期的治療機会の有利不利を記載した。

各論の比較

当初、当会(仮)は、夢物語との差別化についてはあまり言及していなかった。 その後、原則禁止論が非現実的な夢物語であると誤解する人がいることが分かった。 そこで、夢物語との違いを強調し、原則禁止論が最も現実的な妥協案であることを積極的にアピールすることにした。

良くある誤解

日本の国民皆保険制度について、本当の姿を知らない人は混合診療問題において頓珍漢なことを言う傾向にある。

前者の間違いを冒している人は、混合診療問題が患者の贅沢を許容するか否かだと勘違いする。 そして、混合診療に反対する人達は、貧乏人が金持ちを妬んでいるだけだと結論付ける。 もし、その程度の問題であるならば、混合診療問題は患者にとって切実な問題とはならない。 しかし、現実は、患者にとって極めて切実な問題なのである。

問題の本質

この問題の本質は、効果があり、欧米での標準治療として長年使用されているにも関わらず、日本で承認されていない治療法が沢山あることである。 これらは承認されていない治療法だから、当然、健康保険の対象とならない。 それら未承認療法について、承認されるまで待っていられない、健康保険の対象となる前に使いたい、という患者の要望こそが、混合診療の背景にある。 このことに対する唯一にして最良の解決策は、混合診療の解禁でなく、安全で効果のある治療薬を早期に保険適用してください。2009JPA 全国患者・家族集会-団体要望・事例集-である。

しかし、そうは言っても、実際の改革はなかなか進まない。 治療なしには何年も生きられない難病患者にとっては、改革を待つ時間も、未承認療法が承認されるまで待つ時間もない。 だから、承認されるまでの間、混合診療を認めて欲しいという声がある。

混合診療は必要か?

原則禁止派が要求する事例を除き、原則解禁派が要求する事例の多くの場合は、合法的に、混合診療が可能である。 混合診療を禁止する法令は 健康保険法第六十四条保険医療機関において健康保険の診療に従事する医師は、厚生労働大臣の登録を受けた医師(以下「保険医」と総称する。)でなければならない。 保険医療機関及び保険医療養担当規則第十八条保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定めるもののほか行つてはならない。 だけしかない。 保険医療機関で保険診療を受け、かつ、別の自由診療機関で自由診療を受けても、これらの法令に違反しない。 よって、保険診療と自由診療を別々の医療機関で受診すれば(以下、「診療行為の分断」と言う。)、合法的に、混合診療が可能となる。

たとえば、混合診療裁判で争われたような、抗がん剤とLAK療法の併用であれば、この診療行為の分断によって、対応可能である。 都心部であれば、LAK療法を行なう自由診療機関は沢山あり、料金も、千葉県立がんセンターで行なわれていたLAK療法と大差ない(国立の医療機関では遥かに安いところはあった)。 よって、この裁判の事例では、診療行為の分断を行なえば済むことである。 患者にとって多少の手間はかかるが、命に変えられないから混合診療を認めろと言うなら、その程度の手間を負担することくらいで文句は言えないはずである。 そうした患者の多少の努力で解決できる問題であるのに、制度の必要性を無視して、個人的な手間を減らす目的の為だけに、制度を変えろと主張するのでは我が侭が過ぎるだろう。 (尚、LAK療法は、以前は保険外併用療養費と認められていたが、評価期間が終了しても有効性が認められなかったことから現在は対象から外されている。)

ただし、次のような場合は、診療行為の分断では対応できない。

多剤併用療法においては、医薬品の相互作用を一元的に管理する必要があるため、全ての医薬品を同一の医療機関で投与する以外にない。 この場合は、診療行為の分断では対応できない。

混合診療で解決できるか?

原則解禁派は「月30万円の保険外の抗がん剤と保険診療70万円分であれば、現状では月100万円の自己負担となるが、解禁すれば自己負担額は約38万円になる」といった主張をする。 原則解禁派は、保険診療部分よりも保険外診療部分の方が安い事例で説明することが多い。 その事例を見せられると、混合診療解禁によって、あたかも、患者負担が大幅に減るように見える。

しかし、現実には、生死に関わる深刻なケースほど、保険外診療部分の方が圧倒的に高いことが多い。 未承認の抗がん剤などは、月額100万円以上するものも少なくはない。 本当に患者の負担が問題になるケースでは、保険外診療部分の方が金額が大きいのである。 そのような場合は、全額自費だろうが、一部自己負担だろうが、金額として大差はない。 混合診療が認められても、切り崩す貯金のない人、担保になる財産を持たない人、お金を借りられる知人がいない人には、全く無縁の話である。 切り崩す貯金があっても、それを治療費に充てれば、家族に残すはずの遺産を使い果たすことになる。 借金が可能であっても、それを治療費に充てれば、家族に借金を背負わせることになる。 とくに、患者自身が一家の大黒柱である場合は、貯金の切り崩しや借金は避けたい。 結局、そうした大きな妥協をした上で、治療を受ける選択が出来る人だけが、混合診療の恩恵を受けられる。 そして、混合診療が認められるかどうかに関わらず、限られた資金を使い果たすまでの治療費しか払えない。 つまり、混合診療解禁によって受けられる恩恵も、治療可能な期間が多少伸びるだけに過ぎない。 これでは、とても解決と言うには程遠い。

しかし、保険適用にすれば、貯金の切り崩しも借金も不要になる。 保険が適用されれば高額療養費制度の対象となるので8万円の負担で済む混合診療問題ニュース12 - 神奈川県保険医協会のである。 また、次のような場合はもっと安くなる。

このように、効果のある治療法を保険適用すれば、貧乏人にも十分な治療機会を得られる。 そうでなければ「貧乏人は黙って死ね!」という状況は全く改善されない。

懸念されること

保険縮小

国民皆保険制度は「効果があり、かつ、医療上の必要性の高い治療法は全て健康保険で給付する」前提で成り立っている。 一方、混合診療解禁は、その原則を崩すことを容認する前提で成り立っている。 何故ならば、原則を崩すことを容認しないならば、混合診療を解禁する必要はないからである。 原則を崩すことを容認するならば、国民皆保険制度の後退につながることは自明の理である。

既成事実として原則が崩れているのならば、それを容認するのではなく、原則に沿うように制度を修正すべきだろう。 もちろん、制度修正に時間が掛かるならば、それまでの過渡的措置としての対応を考えることは必要だ。 しかし、過渡的措置を採用したとしても、速やかなる制度修正を行なうことを前提とし、かつ、制度修正が完了するまでの一時的措置として採用すべきことだろう。 国民皆保険制度を守りたいなら、過渡的措置を採用したとしても、原則の崩れは決して許すべきではない。 原則の崩れを容認するようでは、国民皆保険制度を守れるはずがない。

混合診療と保険範囲は無関係だと主張する者もいるが、原理的に、混合診療解禁と保険診療充実は、決して、両立し得ない。 何故なら、患者の利益の観点での混合診療必要論は、未承認薬問題が解決できないことを前提としているからである。 言い替えると、未承認薬問題が解決できるなら、患者の利益の観点での混合診療必要論は成り立たない。 未承認薬問題が解決可能であるならば、その解決策だけを実行すれば事足りるので、混合診療を必要とする理由が崩れる。 そして、混合診療を導入しても、それは、保険適用拡大にとっては何のプラスにも働かない。 むしろ、混合診療の導入によって、承認を求める声が若干弱まり、また、承認に逆行する圧力が強まるため、未承認薬問題にとっては不利となりかねない。

医療財源は、常に、財務省や政治家達に狙われている。 小泉純一郎元首相も財政再建のため「三方一両損」なる意味不明な口実で(明らかに、患者の一人損)で、医療費削減を行なった。 保険外しも最近は6ヶ月を超える入院の差額徴収など、保険の給付を外し患者に負担させる混合診療も登場しています。混合診療問題ニュース5 - 神奈川県保険医協会と現実に起こっている。 このように、医療財源の縮小を目論む官僚や政治家がおり、実際に、医療財源は縮小されているのである。 混合診療を解禁すれば、医療財源を縮小したい人達に「混合診療で使えるから保険適用の必要はない」という口実を与えることになる。

製薬会社にとっても、開発費が高くつき(治験等の効果を証明するデータを採るには多額の資金が必要)、かつ、診療報酬が安く抑えられる保険診療となるよりは、開発費も安く済み、かつ、価格も自由に決められる自由診療の方が、魅力的だろう。 製薬会社にとって、日本の医薬品市場は魅力に欠けるから、ドラッグ・ラグ(「ラグ」というより「レス」)と呼ばれる未承認薬問題が発生するのだ。 それでも、現状では、日本の医薬品市場に参入するには、健康保険の枠組み内で販売するしかない。 しかし、健康保険の枠組みに囚われる必要がなくなるのであれば、製薬会社は、こぞって、保険診療から自由診療への転換を始めるだろう。 そうなれば、増々、保険で使えない医薬品が増えることは誰の目にも明らかだ。

インチキ“治療”法の蔓延

多数のインチキ“治療”法が堂々と宣伝されているが、これらはほぼ野放し状態である。 「がんに効く」などと薬事法違反の広告を行なっている多数の書籍が堂々と一般書店に並んでいる。 数日の新聞を見比べるだけで分かることだが、大手新聞の1面下部の広告欄は、この手の薬事法違反書籍の格好の宣伝の場と化している。 しかし、そうした薬事法違反行為のうち、摘発されたり行政指導を受けるのは氷山の一角である。 役所の監視の目が及びにくいネット販売なども含めれば、ほぼ、無法状態と言って良い状況である。 インチキ“治療”法を実践する医療機関等も少なからず存在する。 酷い例では、近畿大学の教授(当時)が近畿大学の公式サイト上でインチキ療法を宣伝し、後に詐欺罪で逮捕された事例もある。 最近では、新潟大学の教授がバイブル本で怪しげな療法を宣伝している。 こうした事例も実際に摘発されるまでは何年も掛かるし、未だに野放しのインチキ“治療”法も少なくはない。

ただし、保険医療機関や保険医に限れば、そうしたインチキ“治療”法が実践されている事例は非常に少ない。 これは、保険医療機関及び保険医療養担当規則第十八条保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定めるもののほか行つてはならない。とする法令が、一定の歯止めになっていると考えられるからである。 何故なら、保険診療を主に行なう医療機関や医師は、保険医療機関や保険医の認定を取り消されると、認定医療機関や認定医に患者を取られてしまい商売上がったりになるからである。 認定取消が怖くないのは、自由診療機関だけであろう。 以上のとおり、混合診療を禁止することは、インチキ“治療”法に汚染されないよう、保険医療機関や保険医を聖域として保護する効果がある。 混合診療を禁止する限り、保険医療機関や保険医だけを利用すれば、インチキ“治療”法の被害に遭う危険性は少ない。

これに対して「インチキ“治療”法を防ぎたいなら、インチキ“治療”法を防ぐ対策を講じるべきであって、それは混合診療を禁止する理由にならない」と主張する人もいる。 しかし、それは「殺人事件を防ぎたいなら、殺人事件を防ぐ対策を講じるべきであって、刑法で殺人を禁止する理由にならない」と主張することと大差ない。 対策を講じるべきと言うだけなら簡単だが、効果のある具体的提案をしなければ有効な対策は講じようがない。 そして、刑法で殺人を禁止することこそが殺人事件防止の最も有効な対策である。 現行の対策の撤廃を主張するなら、その代わりとなる具体的対策を示さなければ無責任であろう。 それと同じく、インチキな“治療”法対策となっている混合診療禁止方針を撤廃しろと言うなら、その代わりとなる具体的対策を示さなければ無責任であろう。

暫定的な対応

最終的解決策は、効果のある治療法は全て保険適用にする以外にない。 しかし、その最終的解決策が現実化するには、かなりの時間を要すると予想される。 その間の混合診療解禁では、恩恵を受けない人の方が圧倒的に多いと予想されるものの、救われる命も少なからずあると考えられる。 しかし、本来あるべき改革から逆行する懸念や、インチキな治療が蔓延する懸念があるため、無条件解禁はすべきではない。 それらを総合的に考慮すれば、次の条件を満たす一時的かつ限定的な混合診療解禁とすべきだろう。

さらに、具体的には、次のような一時的かつ限定的な混合診療解禁が求められる。

実際のところ、未承認医薬品も公知申請の対象と認めるようにすれば、ほとんどの問題は解決することが期待できる。

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