ニボルマブ(オプジーボ)は国を滅ぼすか?

問題提起 

ニボルマブ(オプジーボ)が国を滅ぼすと言う人がいるが、これは事実か。

  • 「1剤が国を滅ぼす」高額がん治療薬の衝撃 年齢制限求む医師に「政権がもたない」(産經新聞)
  • 第1部新薬の光と影「たった1剤で国が滅ぶ」(毎日新聞)

「国が滅ぶ」と言っているのは薬価制度をよく知らない医師である。 薬価制度を理解していれば、「国が滅ぶ」の根拠としている計算の間違いが分かる。

高価になった原因 

まず、オプジーボは月額290万円とされるが、どうしてこんなに高いのか、その原因が鍵になっている。 「国が滅ぶ」と言っている人には、その視点が完全に欠けている。 ハッキリ言って、この価格は、他の医薬品と比較にならないほど突出して高い。 突出して高価な原因は、最初の承認時に患者数が少ない「悪性黒色腫」の治療薬として承認されたためである。

厚生労働省は薬価の告示前、メーカーに対して想定される患者数や製造コストなどのデータを提出させる。 それを基に薬価は決定されるが、想定していたよりも市場が大型化すれば薬価は見直されてきた。

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具体的な金額を決める方法は二つ。 一つが「原価計算方式」だ。 すでに市販されている薬に似たものがないため、一から原価を積み上げて算定する。 オプジーボはこれで計算された。

オプジーボは生きた細胞を使って遺伝子組み換えで作るため工程が複雑で原価が高く、1瓶で45万9778円。 そこに、世界で初めて承認されたとして営業利益の率で標準(16.9%)に6割加算し、額では17万55円に設定。 流通経費などを加え、約73万円に決まった。

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従来の抗がん剤とはまったく違う仕組みでがんをやっつける治療薬が登場した。 体に備わる免疫の仕組みを生かす免疫チェックポイント阻害剤の「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」だ。 日本発のこの新薬は2014年からまず皮膚がんで使えるようになり、肺がんにも健康保険が適用された。

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特に難しいのが、他に比較する対象のない革新的な薬の価格決定だ。 開発にかかった費用などを、売れる見込みの薬剤数で割り、そこに1剤ごとの材料費を足すのが基本。 患者予測数が少ないと、単価は上がる。

「オプジーボ」もそんな薬だ。2年前、皮膚がんの一種「悪性黒色腫」の薬として登場。 患者予測はピーク時でも470人と少なく、高単価となった。 1年半後、非小細胞肺がんに適応が拡大されたため、患者数は2桁も変わり、財政インパクトが一気に膨らんだ。

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オプジーボは当初、皮膚がんの一種「悪性黒色腫」の治療薬として承認された。 薬価は使う患者が少ないほど高くなる傾向があり、オプジーボの予想患者数が年470人と少なかったため高額になった。 昨年12月、一部の肺がんに適応が拡大し、対象の肺がんの患者は年約5万人に上るとされるが、現行のルールでは薬価は変わらない。 横倉会長は「医療側も無制限に使うのではなく、必要な患者へ適切に処方することが必要」と指摘した。 一方、発売元の小野薬品工業は11日、オプジーボの2017年3月期の国内売上高が、前期の約6倍の1260億円に増えるという販売予想を発表した。

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オプジーボの対象患者は当初想定が「年470人」だったものが、効能追加により一気に「年約5万人」に膨れ上がった。

薬価改定 

「年470人」でコスト計算して薬価を算定しておいて、その価格のまま「年約5万人」に使用すれば、確かに、「国が滅ぶ」だろう。 しかし、一般に、当初の予定より想定患者数が増えた場合は、薬価の引き下げの対象となる。

その後、一部の医薬品の売り上げが問題となり、1995年11月22日中医協の建議が出され、1996年4月には通常の薬価改定に加えて、 市場規模が薬価基準収載当初想定したものより、大幅に超え(2倍以上)、かつ売上高(薬価換算)が年間150億円を超えている医薬品についての再算定、 さらには、薬価基準収載後に効能拡大等を行ったものについても、同様に再算定が実施された。

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小野薬の「オプジーボ」には今後、2つの薬価引き下げが待ち受けているとみられる。 1つは「ハーボニー」が対象となった「特例拡大再算定」だ。 「特例拡大」は「想定以上に大型化した薬剤を対象にする」という意味。 「再算定」は薬価をもう一度算出し直すということだ。


16年度の薬価制度改革では、「特例拡大再算定」について新しいルールが導入された。 具体的には引き下げ率をさらに強化。 薬剤の年間売上高が「当初予測の1.5倍以上かつ1000億円を超える」のケースで最大25%、「当初予測の1.3倍以上かつ1500億円を超える」のケースでは最大50%の引き下げをそれぞれ行う。 そうなると、「オプジーボ」は1500億円超のケースの対象として、同制度の洗礼を受けることになるというわけだ。

厚生労働省は新たな薬価引き下げ策も模索している。 薬価に「費用対効果」を導入しようというものだ。 抗がん剤分野では、延命効果などをコスト計算して薬価に反映させるという。

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今月13日に開かれた中央社会保険医療協議会。 出席した委員から、オプジーボを念頭に値下げを求める意見が相次いだ。 オプジーボは4月に適用された価格引き下げの新ルールの対象品目ではない。 次の見直し時期は2年後だ。

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2016年度の診療報酬改定で、医薬品・医療機器の費用対効果評価が試行導入されていますが、当面は、既収載品の再算定に用いられることになっており、2018年度の次期改定では抗がん剤のオプジーボやC型肝炎治療薬のハーボニーなど12品目の医薬品・医療機器を再算定の対象とする―。

27日に開かれた中央社会保険医療協議会の費用対効果専門部会と総会では、このように再算定対象品目が決定されました。

2018年度の費用対効果評価に基づく再算定、オプジーボやハーボニーなど12品目に決定―中医協総会 - メディ・ウォッチ

ようするに高い高いと騒いでいるのは今だけであり、近いうちに真っ当な価格まで薬価が引き下げられることは間違いないだろう。 「薬代だけで年1兆7500億円」などという事態は薬価改定によって回避されるのである。 もちろん、それでも、その場の価格は発売元の会社が損をするような価格にはならない。

ただし、そこからさらに数年経ってさらに薬価が大きく引き下げられた後もそうだとは断言できない。 特許期間中の新薬の薬価改定について - 厚生労働省P.6,7や保険医療上必要性の高い医薬品の薬価改定方式について - 厚生労働省P.4を見れば分かる通り、日本では2年毎の薬価改定により、薬価はドンドン下がって行くからである。 承認されたばかりの新薬や「長期に亘り供給されている古い医薬品」がここまで下がるのは欧米にはない日本市場だけの特徴的な傾向である。

ドラッグラグ・未承認薬との関係 

薬価を下げすぎて適正な利益が確保できないことがドラッグラグ・未承認薬の原因となる。

実は、患者団体も高額薬引き下げの新ルールに複雑な表情をにじませる。 治療法の少ない疾病では特に、新薬の登場だけが頼みの綱。 開発費を確保してこそ、次の技術革新につながるという企業側の論理に理解を示すからだ。

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次のどちらも国民皆保険制度を崩壊させる。

  • 過剰利益
  • 過少利益あるいは採算割れ

現状の日本の制度では、ごくまれに過剰利益が発生する一方、過少利益や採算割れは頻繁に発生する。

ソバルディは昨年5月、ハーボニーは同8月保険適用され、それぞれ1錠あたり約6万円と8万円。 患者負担は低額だが、12週で約500万~700万円かかる高い薬だった。 だが、慢性肝炎は、高確率で肝硬変や肝がんに移行する。 そんな将来のリスクや治療費も減らす薬として市場は急拡大。 それが3割の大幅引き下げとなった。


東京慈恵会医科大学の石川智久准教授(消化器・肝臓内科)は「12週で9割以上のウイルス感染が治ることが分かっている。 米国では、現状のまま使用すれば2035年にC型肝炎が珍しい感染症になるという研究もある」と評価する。

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「12週で9割以上のウイルス感染が治る」、「現状のまま使用すれば2035年にC型肝炎が珍しい感染症になる」、「肝硬変や肝がん」の「将来のリスクや治療費も減らす」薬のコストが「12週で約500万~700万円かかる」ことを問題視する必要があるかどうか良く考えてもらいたい。 確かに、一時的には医療コストが膨らむだろう。 しかし、それにより「肝硬変や肝がん」の「治療費も減らす」のである。 長い目で見れば、医療コストは決して大きくない。 むしろ、「C型肝炎が珍しい感染症になる」と製薬会社の経費が回収できない恐れがある。 その方が問題であろう。

現在の「原価計算方式」では、薬価収載の瞬間の事情しか反映されない。 その後の薬価改定では、「原価計算方式」は一切採用されない。 効能追加で患者数が膨大に膨らんでも、薬価が引き下げられて採算割れしても、その時点では「原価計算方式」は適用されない。 ようするに、現状の制度の問題点は、過剰利益や過少利益が自然と解消するシステムになっていないことである。 たとえば、開発費用や設備投資費用等の初期投資と原料費や光熱費や人件費等の運転費用に分け、初期投資が回収できるまでは高い薬価をつけておき、初期投資が回収できたら薬価を引き下げ、その後は、その薬価を維持するというやり方もあろう。 そうすれば、「薬価差益はケシカラン」などの非理性的な国民感情を満たすために、非論理的な手段で2年毎の薬価改定を繰り返し、際限なく薬価が引き下げられる…という現状の制度より遥かにマシだろう。

もちろん、現状でも、薬価の調整機能が全く無いわけではない。 「特例拡大再算定」の制度もあるが、オプジーボのような極めてまれで極端な事例においては調整は不十分である。 それでも、極まれな過剰利益が発生した場合は「国と委員ら」(中央社会保険医療協議会)が大騒ぎして、結果、薬価が引き下げられる。 しかし、過少利益や採算割れが発生した場合、製薬会社が抗議しても聞き入れられることはない。 極まれに発生する過剰利益は放っておいても、そのうち「国と委員ら」が頑張って解決してくれる。 しかし、高頻度で発生する過少利益や採算割れは誰も解決してくれない。 患者や家族の立場でより深刻な問題は後者の方である。 過剰利益で大騒ぎするくらいなら、過少利益や採算割れをもっと問題にすべきなのである。

偽憎悪 

「国が滅ぶ」と言っている人は、偽憎悪もあるから効かない人も年間を通じて使用し続けることになると言っている。

今のところ見極めのタイミングは投与開始後3カ月程度というのが大勢のようですが、その後に腫瘍が縮小したといった報告もあり、完全に決着しているわけではなさそうです。

チェックポイント阻害とPseudo progression - 日経バイオテクONLINE

しかし、「見極めのタイミングは投与開始後3カ月程度というのが大勢」であれば、効かない患者が年間を通じて使用し続けることは考え難い。

後出しジャンケンか? 

この新制度導入については「『オプジーボ』がターゲット」との受け止め方が少なくない。 ただ、製品が大型化したら価格を引き下げるのは、自由競争の原則から逸脱する行為。 素晴しい新薬を開発して企業が営業努力をしても、それはむしろリスクに変わってしまうことを意味する。 今回の新制度は高薬価の医薬品躍進に対する「後出しジャンケン」とはいえないか。

株価絶好調、小野薬「オプジーボ」の薬価引き下げは本当か! - 会社四季報オンライン

これは何を言っているのか意味不明である。 「自由競争の原則」であれば、販売数が飛躍的に伸びた商品の価格は、量産効果によるコストダウンにより大きく下がるのが常である。 独占商品についても、同様の価格低下は起きる。 というのも、理性的な企業であれば、需要曲線を予測して利益が最大になる価格を選ぼうとするからである。 価格に販売数を掛けて、そこから総コストを引いたものが利益になる。 一般に、価格と販売数はバーター関係であり、積を最大にするにはそこそこの価格が一番良い。 また、一定以上の数が裁けなければ量産効果が生じないのでコストダウンが難しい一方、作れば作るほど量産効果が増えるわけでもない。 さらに、医薬品の場合は患者数以上に販売が増えることも期待できない。 そうしたことを総合的に考慮し、数万人の患者がいる前提であればさすがに月額290万円では利益最大にはならないだろう。 つまり、「自由競争の原則」が適用されていれば、販売数量の増加によって価格は下がり得るのである。 一方で、日本の国民皆保険制度での医薬品は、国が薬価を定めている以上、勝手に値段が下がることはない。 「自由競争の原則」が適用されない商品に対して、人為的に「自由競争の原則」に近い状態を作り出すことが、「自由競争の原則から逸脱する行為」とは全く意味不明である。

まとめ 

まとめると、本件は、患者数の少ない疾病の治療薬として承認された医薬品が、その後、患者数の比較的多い疾病に効能拡大されたことによる、極一時的に発生した珍事に過ぎない。 そして、そうした珍事も、薬価の引き下げで解消される。 だから、「薬剤費が、2割近く跳ね上がる」という事態は起きないし、「国が滅ぶ」こともない。 こんな氷山の一角に過ぎない珍しい出来事よりも、薬価が低く抑えられていることによるドラッグラグ・未承認薬の方が遥かに深刻な問題である。

TPPのISD条項 

オプジーボような事例で外資系企業の薬価を引き下げると、TPPのISD条項に基づく国際投資仲裁で高い賠償金を取られるのではないかと心配する人もいるだろう。 しかし、国民皆保険制度はISD条項で潰されるか?を良く読んでもらいたい。 「原価計算方式」は、「想定される患者数や製造コストなどのデータ」を元にして適正な利益が得られるようにするための計算方法である。 効能拡大によって患者数の激増し、それによって得られる莫大な利益は、明らかに「原価計算方式」は想定していない。 つまり、そうした莫大な利益は「正当な期待(legitimate expectation)」を構成しない。 よって、この価格改定は公正衡平待遇違反には当たらない。 また、価格改定後も適正利益が確保できるならば、収用違反にもなり得ない。 違反に問われる余地がないので、高い賠償を取られる恐れはない。

むしろ、賠償が認められる可能性があるのは、2年毎の薬価改定の方だろう。 政府による薬価算定は適正価格を目的としているはずだから、それにより適正な利益が得られるという「正当な期待(legitimate expectation)」は構成される。 だから、2年毎の薬価改定により薬価が大きく引き下げられ、それにより過少利益や採算割れが発生した確実な証拠があるなら、公正衡平待遇違反が認定される余地はある。 もちろん、言うまでもなく、違反が認定されるためには客観的かつ明確な証拠が必要である。 そうした違反に対して適正な賠償が認められなければ、ドラッグラグ・未承認薬問題が拡大するので、国民皆保険制度は崩壊する。 国民皆保険制度を守るためには、この違反には適切に賠償が認められなければならない。 つまり、ISD条項は国民皆保険制度を守る方向に作用するのである。


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